Biophilia 16
特集: 感染症を知る
感染症の対策の根本は病原体を正しく知り、そして正しく怖れることである。しかし、我々は未だ病原体の性状について完璧に知り得てはいない。また、病原細菌や病原ウイルスは変貌する環境に適応して絶えず変異、組換えを繰り返している。そして、環境に適応したもののみが生き残る。強病原性の獲得は種の保存に必ずしも適応しているとは限らない。一方、ヒト社会は感染者、発症者こそその総力を挙げて護っていかねばならない。病原体との戦いにおいては決定的なハンデキャップであるが、ヒトにはヒトにしかない武器がある。ヒトにはあくなき“知”の探求があり、そして“知”を共有することができる。さらに、社会の維持のために、弱者を護らねばならないという“優しさ”を本質的に有している。
ここに感染症研究が他の医学研究と徹底的に違う点があり、従事する感染症研究者の使命と矜持がある。しかし、自ら彊じ感染症研究にあたるとき、心せねばならない最重要点は、その研究対象として感染性を有する微生物を扱うことにある。研究成果は遅滞なく公開せねばならないことはもちろん、その微生物をバイオセーフティーの観点から正しく扱っていることをエビデンスを持って示していかねばならない。また、研究施設を取り巻く環境、住民に正しく研究内容を理解してもらうこともまた不可欠である。
国立感染症研究所(感染研)は、我が国の感染症研究の総本山といわれているが、その証左の1つとして年2回、国立感染症研究所安全連絡協議会を開催し、市民に対し、研究所の安全管理について報告するとともに、研究所で行われている研究の意義づけ、目的、進捗状況について“トピック”として個々の研究リーダーが説明している。本特集では、同協議会で取り上げた“トピック”を中心に現在関心の高い感染症についてまとめた。感染研での研究の一端をより多くの方々に知ってもらう機会となればと思う。
国立感染症研究所 所長 宮村達男
もくじ
【巻頭言】生命科学の進展に寄せて
【特集】感染症を知る
【総説】
【連載】
【インフォメーション】
Capsula Verborum
温室効果ガス : greenhouse gas胚性幹細胞(ES細胞) : embryonic stem cell
最高技術責任者 : chief technology officer (CTO)
情報格差 : digital divide
物理科学 : physical sciences
温室効果ガス排出権取引 : cap-and-trade
国内総生産 : gross domestic product (GDP)
国内裁量支出 : domestic discretionary spending
食品医薬品局 : the Food and Drug Administration (FDA)
疾病対策予防センター : the Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
非営利組織 : nonprofit organization (NPO)
遠隔治療 : telemedicine
大統領科学技術諮問委員会 : the President's Council of Advisors on Science and Technology (PCAST)
大統領命令 : executive order (EO)
人工多能性幹細胞(iPS細胞) : induced pluripotent stem cell
米国学術研究会議 : National Research Council (NRC)
米国航空宇宙局 : National Aeronautics and Space
Administration (NASA)
コンステレイション計画 : Constellation program